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京都地方裁判所 昭和52年(行ウ)15号 判決 1983年9月16日

京都市左京区吉田中大路町三三番地(原告らに共通)

原告

角田吉夫

原告

神山ハツエ

原告両名訴訟代理人弁護士

田畑佑晃

加藤明雄

京都市左京区聖護院円頓美町一八番地

被告

左京税務署長

浜口満

指定代理人検事

布村重成

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  原告ら

被告が、昭和五〇年二月四日付で原告らに対してした、原告らの昭和四八年分所得税の各更正処分(異議決定及び裁決により一部取り消された後のもの)のうち、原告角田吉夫の分離短期譲渡所得金額中三六六万一六五七円、原告神山ハツヱの分離長期譲渡所得金額中二〇六二万八九七三円を超える部分、及び、これに対応する過少申告加算税の各賦課決定処分(前同)、並びに、原告角田吉夫に対する重加算税の賦課決定処分を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

との判決。

二  被告

主文同旨の判決。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告らは、昭和四八年分所得税について、被告に対し別表一の確定申告欄記載のとおり各確定申告をしたところ、被告は、昭和五〇年二月四日付で同表の更正処分欄記載のとおり各更正処分並びに過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分をした。そこで、原告らは、被告に対し異議申立をしたところ、被告は、同年六月二六日付で同表の異議決定欄記載のとおり原処分の一部を取り消す旨の異議決定をした。さらに原告らが、国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同所長は、昭和五二年三月一四日付で同表の裁決欄記載のとおり原処分の一部を取り消す旨の裁決をした。

2  しかしながら、被告の右各更正処分(右異議決定及び裁決により一部取り消された後のもの)は、原告ら角田吉夫の分離短期譲渡所得金額及び原告神山ハツヱの分離長期譲渡所得金額を過大に認定しており、これに基づく過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分も違法である。

3  結論

原告らは、これらの取消し(ただし、各更正処分については、原告らの各確定申告額を超える部分の取消し)を求める。

二  請求原因に対する答弁

1  請求原因1項の事実は認める。

2  同2項の主張は争う。

三  被告の主張

1  原告らの不動産の取得

(一) 原告神山ハツヱは、昭和三四年一〇月、別紙物件目録記載のA、Bの土地(以下単にA、Bの土地という)の共有持分八分三及び同目録記載のCの土地(前同)の共有持分二分の一を取得した。

原告角田吉夫は、昭和四四年一一月、A、Bの土地の共有持分八分の一を代金三九六万円で取得した。同原告は、昭和四八年四月二四日、A、Bの土地の訴外中川重子及び同森田伊福(以下中川らという)の共有持分各八分の二及びC土地の中川重子の共有持分二分の一を、代金合計五九七四万円で取得した。

(二) 原告らは、その後、A、B、Cの土地を一旦Aの土地に合筆したうえ、これを別紙物件目録記載のD、E、Fの三筆の土地(前同)に分筆した(なお、Cの土地の区域は、すべてFの土地に含まれて分筆された)。

2  譲渡所得の発生

(一) 原告らは、昭和四八年六月一九日、右分筆後のD、Eの土地を訴外南箱根不動産株式会社(以下南箱根不動産という)に、代金坪当たり二二万二〇〇〇円、総額一億七八七四万九九六〇円で譲渡した。

(二) 右譲渡による原告らの昭和四八年分の各譲渡所得の金額及びこれに対する税額は、別表二及びその計算根拠に記載したとおりである。

3  予備的主張

仮に、前記1項(一)後段及び2項の各事実が認められないとしても原告らは、昭和四八年四月一八日、A、Bの土地について有する各共有持分(原告角田吉夫は八分の一、原告神山ハツヱは八分の三)を、訴外宗教法人 満院(以下 満院という)に坪当たり八万円で譲渡した。

ところで、右価額は、右土地の譲渡当時における時価( 満院が同年六月一九日これを南箱根不動産に対して譲渡したときの価額坪当たり二二万二〇〇〇円に時点修正をほどこした価額坪当たり約二〇万七六五六円)の二分の一未満の額による譲渡である。したがって、所得税法五九条、同法施行令一六九条により、右時価に相当する金額によってこれらの土地の譲渡があったものとみなされる。そうすると、原告らの昭和四八年分の各譲渡所得の金額及びこれに対する税額は、別表三及びその計算根拠に記載したとおりになる。

4  加算税

原告らは、D、Eの土地の南箱根不動産に対する譲渡について、その各共有持分を 満院に坪当たり八万円で譲渡したごとく事実を仮装した。仮に、そうでないとしても、原告角田吉夫は、訴外楠本順一に対し仲介料一五〇万円、同武田義明に対して謝礼金三〇万円を支払ったごとく事実を仮装し、内金四五万円を譲渡費用に計上した。そのうえで、原告らは、別表一の確定申告欄記載のとおり各譲渡所得について過少な申告をした。

5  結論

したがって、右いずれにせよ、別表二ないしは三の税額の範囲内でなされた本件各更正処分及び各賦課決定処分は適法である。

四  被告の主張に対する原告らの反論

(認否)

1 被告の主張1項の(一)の事実のうち、原告神山ハツヱの共有持分取得及び原告角田吉夫の昭和四四年の共有持分取得の事実は認める。原告角田吉夫が、昭和四八年に中川らの共有持分を取得したとの事実は否認する。

2 同1項の(二)及び2項の事実は否認する。

3 同3項の事実のうち、原告らがその有する各共有持分を 満院に坪当たり八万円で譲渡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

4 同4項の事実は否認する。

(反論)

1 原告らは、昭和四七年一一月九日、A、B、Cの土地の各共有持分(A、Bの土地について原告角田吉夫が八分の一、原告神山ハツヱが八分の三、Cの土地について原告神山ハツヱが二分の一)を、 満院に対し総額三二九六万円で譲渡した。

2 右譲渡の事情は、次のとおりである。

(一) 原告らは、前記のとおり中川らとA、B、Cの土地を共有していたが、昭和四六年頃から中川らから共有物分割を求められ、昭和四七年には、民事調停を経て訴訟が提起され、係争中であった。

(二) 原告らは、丁度その頃、 満院が寺院建立一〇〇〇年記念事業として別院建立のための土地を探していることを知り、A、B、Cの土地の共有物分割をめぐって長期間にわたって相争うよりも、右計画のためにA、B、Cの土地を譲渡する方が得策であると考え、昭和四七年一一月九日、原告らの前記共有持分を代金総額三二九六万円(坪当たり八万円)で 満院に譲渡した。

(三) なお、買主 満院の門跡訴外三浦道明の妻が原告神山ハツヱの娘で原告角田吉夫の妹にあたるところから、原告らと係争中の中川らがその共有持分を 満院に譲渡しないことも考えられたため、三浦道明と原告らは、三浦道明の知人が経営する不動産業者訴外株式会社まつもとを名目上の買主とすることとし、同訴外会社に中川らの共有持分の取得に当たらせ、昭和四八年四月一七日その取得を終えた。そこで、原告らの分も合わせて、同月二五日付で全共有者から同訴外会社に所有権移転登記手続がなされ、その後、これが真の買主たる 満院の所有名義に改められた。

3 なお、右譲渡価額は、(一) 原告らがA、B、Cの土地の近隣で多数の知人らから聞きだした周辺土地の時価に近似すること、(二) 譲渡の目的が共有持分であり、かつ、共有物分割をめぐって係争中であること、(三) 約八〇〇坪の広大な土地で簡単に売却できないこと、以上のこと等を総合してきめられた相当な価額であり、原告らには、時価の半額というような低価額で譲渡する認識は全くなかった。

また、右価額の相当性は、譲渡契約時である昭和四七年一一月九日を基準として判断すべきである。

4 以上の次第で、原告らのA、B、Cの土地の共有持分の譲渡による各分離譲渡所得金額は、別表四記載のとおりであって、これは、原告らの当初の確定申告額と一致する。

第三証拠関係

本件記録中の証拠関係目録記載のとおりであるから、ここに引用する。

理由

一  確定申告及び更正処分等

請求原因1項の原告らの各確定申告及びこれに対する更正処分等の課税の経緯は、当事者間に争いがない。

二  原告らの本件土地(D、E、Fの土地)の譲渡について

1  被告の主張1項の(一)の事実のうち、原告神山ハツヱが昭和三四年一〇月A、Bの土地の共有持分八分の三及びCの土地の共有持分二分の一を取得し、原告角田吉夫が昭和四四年一一月A、Bの土地の共有持分八分の一を代金三九六万円で取得したことは、当事者間に争いがない。

2  原告らは、右共有持分を昭和四七年一一月九日圓満院に譲渡したと主張しているのに対し、被告は、原告らの圓満院に対する右共有持分の譲渡は、所得税を免れるための仮装譲渡であり、実際には、原告角田吉夫が一旦中川らのA、B、Cの土地の共有持分をも取得したうえで、原告らが、昭和四八年六月一九日、右各土地を合筆さらに分筆したD、E、Fの土地(本件土地)の共有持分全部を直接南箱根不動産に譲渡したものであると主張しているので、この点について判断する。

(一)  成立に争いがない乙第一ないし第三号証、同第一四号証の一、二、同第一五号証の一ないし五、同第一七号証の一、同第一八号証、同第七一、七二号証、その方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立したものと推定される同第六六号証及び、証人江原正博、同橋本忠彦の各証言によると、A、B、Cの土地は、登記簿上、昭和四八年七月六日付で一旦Aの土地に合筆された後、同日付でD、E、Fの土地に分筆されたこと、南箱根不動産の事実上の代表者であった訴外江原正博との間で、本件土地の売渡交渉を主体的に行なったのは、D、Eの土地に関する昭和四八年六月一九日付の契約でも、Fの土地に関する昭和四九年八月二日付の契約でも、三浦道明ではなく原告角田吉夫であって、江原正博と同原告との交渉で各単価が決定されたこと、同原告は、その際、江原正博に対し、本件土地の売主は原告らであるが、原告らの税金対策上、圓満院の名義を介在させる旨を述べたこと、江原正博は、これに不安を感じたが、司法書士と相談の末これを了承し、圓満院を売主とする売買契約証書(乙第一五号証の三)を作成したこと、以上のことが認められ、この認定に反する証人湯澤武夫、同三浦道明の各証言及び原告角田吉夫の本人尋問の結果は、前掲の各証拠に照らして採用しない。

ところで、法人税法七条、二条六号、別表第二によると、宗教法人は、収益事業から生じた所得以外の所得について、法人税を課されないという特典があるから、原告らとしては、本件土地を一旦圓満院に低廉な価額で売り渡したのち圓満院がこれを南箱根不動産に売り渡した形式を仮装することにより、譲渡所得税の負担を大幅に免れることが可能となる。したがって、この仮装が、原告らが狙いとしたいわゆる「税金対策」として有効なことは、いうまでもない。

他方、成立に争いがない乙第一〇ないし第一三号証及びその方式及び趣旨により公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立したものと推定される同第六七号証並びに、証人三浦道明の証言、原告角田吉夫の本人尋問の結果によると、圓満院の代表役員三浦道明の妻は、原告神山ハツヱの長女で、原告角田吉夫の実妹にあたること、原告角田吉夫自身圓満院の責任役員であり、当時原告らと三浦道明は親しく交際していたこと、圓満院には、その収支を記録した帳簿としては大福帳しかないこと、以上のことが認められ、この認定に反する証拠はない。そうすると、これらの事実からも、右のような仮装行為が十分に可能であったものといわなければならない。

もっとも、前掲乙第一四号証の一、同第六六号証、成立に争いがない同第一六号証及び証人江原正博、同三浦道明の各証言によると、本件土地の売渡しについては、三浦道明も、その初めから、仲介人を世話する等して積極的に関与して原告らに協力していることが認められ、この認定に反する証拠はない。

しかし、三浦道明と原告らとの関係は仮装にもせよ、取引に圓満院の名前を出すこと、三浦道明は、手広く事業を営んでいる者であること(証人三浦道明の証言によって認める)などに鑑み、三浦道明が、積極的に関与した事実が、前記仮装譲渡の事実の認定の妨げになるものではない。

(二)  鉛筆書込み部分以外の成立に争いがない甲第一五号証、成立に争いがない乙第三二号証、同第三七号証の一、二、同第四一号証の一ないし三、同第四四号証の一ないし三、同第四八、四九号証の各一ないし三、同第五四ないし第五六号証の各一ないし三、同第六〇、六一号証の各一ないし三、原本の存在及び成立について争いがない甲第一七号証の一、二、同第一八号証の一ないし四、同第一九号証、証人橋本忠彦の証言によって成立が認められる乙第二三号証の一ないし四、同第二四号証の一ないし三、同第二五号証、同第二六号証の一ないし三、証人西澤秀雄の証言によって成立が認められる同第七〇号証の一、二、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる同第二九号証の一、二、同第三〇号証の一ないし三、同第三一号証の一、二、同第三三号証の一、二、同第三五証の一、二、同第三六号証の一ないし一〇、同第三八号証の一、二、同第三九、四〇号証、同第四二、四三号証、同第四五ないし第四七号証、同第五〇ないし第五三号証、同第五七ないし第五九号証、同第六二号証、同第六三号証の一ないし三及び証人橋本忠彦、同西澤秀雄の各証言によると、南箱根不動産からのD、Eの土地代金一億七八七四万九九六〇円は、一旦訴外滋賀銀行本店の圓満院三浦道明名義の普通預金口座に入ったが、別表経路図のとおり内金一億六七〇〇万余円が訴外京都信用金庫東山支店の圓満院代表取締役三浦道明名義の普通預金口座(口座番号七三-一七九二四-〇・以下A口座という)及び原告角田吉夫名義の口座に振り替えられ、さらに、昭和四九年八月二日にはFの土地代金二、〇四一万八、七五〇円もA口座に振り込まれたこと、A口座は、昭和四八年七月一一日D、Eの土地代金中七、〇〇〇万円を振り込んで開設され、Fの土地代金振込後まもなく解約されたこと、圓満院は、これとは別に同東山支店に昭和四八年一二月二〇日開設された宗教法人圓満院名義の別の普通預金口座(口座番号七三-一八八七八-七・以下B口座という)を有していたこと、A口座、B口座は、使用される印鑑、払戻請求書の「三浦道明」の肩書、筆跡を異にし、引出、預入れの頻度にも差異があること、前記東山支店が、圓満院自身の借入金の利息をA口座から引き落としていたところ、後になって、預金者からの口座違いの申出によりわざわざ遡ってこれをB口座に振り替えられたこと、A口座からは、別表経路図のとおり原告ら及びその家族名義の口座に資金が流れたこと、以上のことが認められ、この認定に反する証拠はない。

そうして、三浦道明は、その証人尋問で、同時期に同一支店にA、Bの二口の普通預金口座を設けた理由及び両口座の目的、性格の相違について尋ねられても、全く支離減裂な供述を繰り返し、両口座の使途に差がないことを強調するのみであり、A口座からの多額の払戻金についても、ついにその使途を明らかにしなかった。

以上のような事実を総合して考えると、A口座は、圓満院自身の口座であるB口座とは区別され、性格を異にしていたもので、A口座は、実質的には原告らに帰属する口座であるといわなければならない。

なお、三浦道明は、その証人尋問で、A口座の払戻請求書の各筆跡は、同人の妻(つまり原告神山ハツヱの娘)の筆跡であると証言しているが、その裏付けがないし、仮りにそうだとすると、右払戻請求書によって払い戻された金で別表経路図のとおり、即日、同支店で原告らの家族名義の多数の定期預金(<優>分を含む)が設けられているのであるから、むしろ、三浦道明(その妻をも含めて)と原告らとの密接な金銭関係をこそ、うかがわせるものというべきである。

(三)  他方、中川らからのA、B、Cの土地の共有持分の取得の経過をみると、前掲乙第六七号証、成立に争いがない乙第一九ないし第二一号証、同第二二号証の五ないし七、官署作成部分の成立について争いがなく、その余の部分の成立は、原告角田吉夫の本人尋問の結果によって認められる甲第一〇号証、証人橋本忠彦、同西澤秀雄の各証言並びに原告角田吉夫の本人尋問の結果の一部によると、原告角田吉夫と中川らとの間で、以前同原告が中川らの共有持分を買い取る話が成立していたが、同原告が一向にこれを実行しなかったため、資金に窮した中川らから昭和四七年初め共有土地の分割請求がなされたこと、これに対し、同原告は、改めて中川らと買取りの交渉をしたが、値段の点で折合いがつかず、紛争がこじれたこと、しかし、土地の形状からして分割は不利益であったため、同原告は、三浦道明の協力も得ながら本件土地の転売について努力をする一方、友人の武田義明を通じて楠本順一に対し、買い受ける人の名を秘したうえで中川らと共有持分買取りの交渉をするよう依頼し、楠本順一を通じて単価坪当たり一四万五、〇〇〇円でこれを売り渡す旨の同意を得たこと、そこで、同原告は、右の購入資金総額五、九七四万円の融資を京都信用金庫東山支店に原告らの名前で申し込み、昭和四八年四月一七日、原告らの自宅を担保として合計六、三〇〇万円を借り受けたこと、そして、同原告は、右購入の代金をこれから支払い、かつ、楠本順一に対する報酬五〇万円(ただし、同原告によれば一五〇万円)も、同原告が支払いこれを負担したことが認められ、この認定に反する証人三浦道明の証言、原告角田吉夫の本人尋問の結果の一部は採用しないし、ほかにこの認定に反する証拠はない。

(四)  次に、原告らの主張する圓満院に対する共有持分の譲渡価額は、坪当たり八万円であるが、これは、前記中川らの共有持分の単価坪当たり一四万五、〇〇〇円と比べても、南箱根不動産に対し原告角田吉夫自身が交渉して決定した単価坪当たり二二万五、〇〇〇円と比べても、著しく低廉にすぎ、不合理である。

また、原告らは、その共有持分を、本件土地上に圓満院の分院を健設するために譲渡したと主張している。

しかし、証人三浦道明の証言によると、分院建設のためには中川らの共有持分の取得が不可欠であるところ、昭和四七年一一月当時、中川らと原告らが係争中であったのであるから、中川らの共有持分譲渡の見通しがつく以前に、原告らだけが圓満院との間に、あらかじめ正式の売買契約を締結しておく必要はなかったのである。さらに、本件土地上には、結局、分院は建設されておらず、かえって、前掲乙第一六号証、証人橋本忠彦の証言によると、原告ら及び三浦道明は、昭和四七年夏ごろから本件土地を売却するために不動産業者に仲介を依頼していたことがうかがわれるのである。

なお、原告らの主張によると、分院の建設は、右共有持分売却の後に取り止めになったという。しかも、右土地が三倍近い価額で他に転売されることになったのであれば、売買当事者の親しい間柄からしても、当初の契約は、合意解除されるのが自然であって、これを妨げる事情は見当たらない。また逆に、原告らが自らの損失によって、圓満院に多額の利得を得させなければならない格別の理由を見出だすことは、困難である。

さらに、原告らは、圓満院との間の昭和四七年一一月九日付の共有持分の売買契約書(甲第五号証)を提出しているが、これが実際同日に作成されたとする客観的な証拠は見当たらない。かえって、前掲乙第二二号証の七、同第六七号証、成立に争いがない同第六八号証及び原告角田吉夫の本人尋問の結果によると、原告らと三浦道明とは、右の共有持分の売買に関し、昭和四八年四月一七日付で内容虚偽の領収書(金額二、九九六万円)を作成し、税務調査の際にはこれに従って虚偽の説明をしていること、同様に、昭和四八年四月九日付でも本件土地について内容虚偽の売買契約書を作成して京都信用金庫東山支店に提出していることが認められ、この認定に反する証拠はない。

そうすると、前掲甲第五号証は、原告らと圓満院との売買の証拠とすることは無理である。

3  まとめ

このようにみてくると、原告らは、本件土地の譲渡所得に対する課税を免れるため、三浦道明と共謀して、原告らの共有持分を圓満院に譲渡することを仮装し、かつ、原告角田吉夫が圓満院の名を借りて中川らの共有持分をも取得したうえ、これを合わせて、昭和四八年六月一九日(その後の分筆により、D、Eの土地)と昭和四九年八月二日(Fの土地)の二回に分けて、直接南箱根不動産に本件土地を売り渡したとするほかはない。

三  原告らの譲渡所得金額について

1  Fの土地の譲渡は、昭和四九年のことに属し、本件とは年度を異にするから、除外する。

2  収入金額

原告らは、昭和四八年中にD、Eの土地の譲渡により、別表二の摘要1の計算のとおり、原告角田吉夫が一億一、一七一万八、七二五円、原告神山ハツヱが六、七〇三万一、二三五円の各収入を得たこととなる。

3  取得費

前項の認定事実や、前掲乙第一九号証、弁論の全趣旨によって成立が認められる甲第八号証の二、三によると、原告角田吉夫は、D、Eの土地の取得費として、昭和四四年にA、Bの土地の共有持分八分の一の買入代金三九六万円、昭和四八年にA、B、Cの土地の共有持分合計二分の一の買入代金合計五、九七四万円を支払い、かつ、後者の共有持分の取得のために楠本順一に対する仲介料五〇万円、登記費用二〇万九、一〇〇円、不動産取得税六万一、八〇〇円を支払ったことが認められ、この認定に反する乙第二〇号証及び原告角田吉夫本人尋問の結果は、前掲乙第一九号証に照らして採用しない。

以上の事実、前掲乙第一ないし第三号証、同第七一、七二号証によって認められるAないしFの土地の面積によると、原告角田吉夫のD、Eの土地の共有持分合計八分の五の取得費は、別表二の摘要2の計算どおり五、八五五万三、三四八円となる。

また、同表の摘要3の原告神山ハツヱの共有持分八分の三の取得費三三五万一、五六一円の計算も正当である。

4  譲渡費用

成立に争いがない乙第七五号証の一ないし三、その方式及び趣旨によって公務員が職務上作成したものと認められるから真正に成立したものと推定される同第七六号証、弁論の全趣旨によって成立が認められる同第七七号証によると、原告らは、D、E、Fの土地の譲渡費用として、測量費一〇万六、〇〇〇円、境界証明手数料五万円、整地費用四三万円を支出していることが認められ、この認定に反する証拠はない。

そこで、D、Eの土地に対応する譲渡費用は、別表二の摘要4の計算どおり原告角田吉夫が三三万二、四八九円、原告神山ハツヱが一九万九、四九四円となる。

5  まとめ

そうすると、原告らの各分離短期、長期譲渡所得金額は、別表二のとおり原告角田吉夫が五、二八三万二、八八八円、原告神山ハツヱが六、二四八万一八〇円となる。

四  本件各処分の適法性について

1  更正処分

原告らに対する本件更正処分(異議決定及び裁決により一部取り消された後のもの)は、前項4で認定した原告らの各分離譲渡所得金額を下廻る金額を前提としてされたものであるから、適法である。

2  各賦課決定処分

前項三の5の各分離譲渡所得金額を基礎にして、当事者間に争いがない原告らのその他の所得金額及び各種控除金額を考慮して原告らの右各分離譲渡所得に対する税額を計算すると別表二のとおりの税額となる。

原告らが、D、Eの土地の譲渡について故意に圓満院に対する譲渡を仮装し、過少な申告をしたことは、前に認定したとおりであるから、これに対しては、本来、別表二のとおり原告角田吉夫に九、三〇万六、三〇〇円、原告神山ハツヱに一八三万六〇〇円の重加算税を課し得ることが明らかである。

本件更正処分(異議決定及び裁決で一部取り消された後のもの)は、いずれも長期、短期譲渡所得金額を低く積算してなされたものであり、このように低く積算のうえ算出された過少申告加算税及び重加算税の各賦課決定処分(同上)も、その限りでは適法であるとせざるをえない。

五  むすび

以上の次第で、本件各更正処分及び賦課決定処分の取消しを求める原告らの請求は、いずれも理由がないから棄却することとし、行政事件訴訟法七条、民訴法八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 古崎慶長 裁判官 小田耕治 裁判官 西田眞基)

物件目録

<省略>

別表一

〔原告角田吉夫〕

<省略>

〔原告神山ハツヱ〕

<省略>

別表二

〔原告角田吉夫〕

<省略>

〔原告神山ハツヱ〕

<省略>

<省略>

別表三

〔原告角田吉夫〕

<省略>

〔原告神山ハツヱ〕

<省略>

<省略>

別表四

〔原告角田吉夫〕

<省略>

〔原告神山ハツヱ〕

<省略>

別表

譲渡代金の金融機関における経路図

<省略>

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